遠くへ行きたい

亡くなったお袋はこの歌が流れるたびにぼそっと言っていた。「この歌は好きじゃないから聞きたくない」

そして付け加えた。「あんたのことを思い出すから」

ジェリー藤尾の「遠くへ行きたい」

僕は小学校低学年で外国へ行きたいと思う作文を書き,とにかく家を出てどこか行きたい風なことをよく言っていたようだ。

何の因果か,外国に出る糸口を見いだせなかった1970年ごろ,永六輔さんの事務所でアルバイトをしたこともあった。「遠くへ行きたい」などで東京にいることはほとんどないそうで,永さんにはお会いしなかったけれども。
「君はあまり役に立たないね」と予定よりも早く首になった事務所だ。

改めてお袋が嫌だなぁと言ったのは,僕が久しぶりに一時帰国したときだった。

結局,人生のほとんどどころか,いくら遠くへ行っても,まだ遠くへ行けないまま,そろそろ逝ってしまいそうな様相になってきた。
山の向こうに何か新たな希望がある,と遠くへでかける人はたくさんいると思う。
しかし,身体的にも精神的にももう遠くへ行けなくなり,人生の限りがより現実味を帯び始めると,世界の色が変わり始める。

一方では世界や人間や人生を理解できるほどの頭脳を自分は持ち合わせていなかったことを再認識すると共に,自分が思い込んでいる世界や人間や人生は,ほんの一部に過ぎないのではないかと考え,なんとか動物的,植物的,微生物的な視点になれる方法はないものかと思索するけれども,いくらあがいても進まない。

 

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