今朝の新聞に「中尾彬さん逝く」の報。
失礼ながら,「あぁあの人はそんな有名な人だったのか」という印象を抱いた。
記事には奥さんは池波志乃さんと記されていた。時が経ったとは云え,写真を見ると,僕の記憶とは違う気もする。果たして僕は本当にこのお二人にお会いしたのだろうか?
1984~1985年ごろだったか,1日だけお付き合いさせていただいた。というか,VIP対応という前情報でリムジン運転手と共に西ベルリンをご案内した。
僕にとっては,奥さんのほうが,あぁ日本のテレビで何度か見た清楚な和服姿の女優さんだなと思っていたので,Twiggyのようなミニスカート姿には戸惑った。中尾さんについては,会話のなかで声をしばらく聴いているうちに,ドスの利いた声の記憶が徐々に蘇ってきた感じだった。
ぼくは1970年代の中旬からずっと日本を離れているので,日本のことはほぼ知らない。
正真正銘の日本人なのに,どこか日本人離れしているお二人は,個性が強いせいか,いまだに印象に残っている。
「コンコルドに一度ただ乗ってみたかったから,わざわざニューヨークまでまず行ったんですよ」には驚いた。華麗なフォルムを備えた超音速の旅客機として人気上昇中のコンコルド飛行は,我々一般人には手の届かない高額な料金だったから。
コンコルドはその後,2000年にドイツ人団体を乗せたチャーター機がパリ空港離陸後すぐに墜落し,乗客全員が亡くなる事故を起こした後,最終的にコンコルドのプロジェクトは幕を閉じたのはご存じの通り。
有名人というのは,常に他人の目を気にせざるを得ないので気楽な行動を取れないことは分かるけれども,もうそれが身体に浸み込んでいるのか外国でも,動くグラビア写真のような奥様だった。中尾さんが完全にイニシアチブをとっているので,男尊女卑の夫婦で,ご主人は権威的,奥さんは大和撫子風なのかなという気がしつつ,全く逆の印象もあった。赤の他人に一回会っただけで,夫婦の関係や人間など見えるはずもないので当たり前と言えば当たり前なんだけど。
奥さんはときどき静かに意見を述べるけれども,話し終えるまえに中尾さんが口を出して来ると即止めて耳を傾ける。ぼくのような第三者が居たせいもあると思うけれども,中尾さんの意見に「そうかしら?」すら,異なった見解をはさむことはない。
「俺はこういうのをやりたいんだ。豪快で,雑に見えるけれどもガブっとかぶりつくこんな料理をこんどの番組でやるぞ」と云って気に入ったメニューは,木骨家屋の内装が施されたレストランの,脂がこってりついた大きな豚足料理。ドイツですら女性が喜ぶような料理ではないので,日本女性は口をつけられないのではないかと心配したけれども,本心かどうかご主人の興奮にうなずきながら普通に食していた奥さん。
今思えばぼくは説明足らずのいい加減なベルリン案内をしたような気がするのだけれども,その後,奥様から手書きのお礼のハガキをいただいた・・・確か中尾彬の名前で。
今朝,訃報の記事に並んでいくつも書かれていたのは,おしどり夫婦という表現。
本当かどうか確かめることなどできませんが,本当である,本当であったことを願っています。昔の西ベルリンでの一期一会の舞台の主役俳優として。
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